hidekatsu-izuno 日々の記録

プログラミング、経済政策など伊津野英克が興味あることについて適当に語ります(旧サイト:A.R.N [日記])

睡眠を科学する

たまに布団に潜り込んでも目が冴えてまったく眠れないことがあった。心配事があって眠れない、ということも時にはないわけではないけれど、どちらかと言うと、理由もわからずただ眠れない、ということの方が多かった気がする。

最近は、朝日が入るマンションに引っ越して通勤時間が減ったこともあるのか、まったく眠れない、という機会も減ってはいるのだけれど、快眠はQOL的に重要なわけで、うまく実現する方法があれば知りたかった。

先日、Twitter でたまたま紹介されていた本の評判が結構良かったので買ってみたところ、予想外にまともな本だったので内容を紹介したい。

朝型勤務がダメな理由 あなたの睡眠を改善する最新知識

朝型勤務がダメな理由 あなたの睡眠を改善する最新知識

 

 ダイエットにしても、睡眠にしても、この手の本で困るのは、根拠の怪しい言説をやたらと持ち上げるオカルト本が多いことだ。この本もその類かもしれないけどとりあえずむ程度の気持ちで手にとったのだけど、追試が行われていな研究であることを注意していたり、学術的にわかっていないことはきちんとわかっていないと明記されているなど、記述も大変良心的で問題はなさそうだ。

さて、本書は良い本ではあるものの連載をまとめたものであることもあり、要点がわかりにくい。そこで箇条書きで書き出してみると、こんな感じになる。

  • 睡眠傾向には、その人が本来持つ朝型/夜型の体質や必要睡眠量と環境・習慣による変動からなる
  • 朝型/夜型の体質や必要睡眠量は遺伝的影響が大きく変えられない。睡眠量の個人差は必要睡眠量と環境で2:1の割合
  • 目覚めてから16時間以上が経過すると酒気帯び運転を遥かに越えるレベルで注意力やパフォーマンスが低下する。睡眠不足は蓄積し、4時間睡眠を一週間続けると一晩の徹夜と同じレベルの眠気を二周目には三晩徹夜と同じレベルの眠気を感じる。6時間睡眠でも10日を超えると徹夜明けと同じレベルで認知機能が低下する。眠気は一定程度強くなると頭打ちになるが、認知機能は睡眠不足の累積に応じてドンドン低下する(眠たくはなくてもアホになってなるかもしない!)
  • 高校生~大学生の思春期に最も夜型になる。登校時間を遅らせるだけで集中力が上がり、抑うつ感や倦怠感が改善し、健康に対する不安が減り、学習や課題活動へのモチベーションが高まる。成績上位者の割合が34%から50%に急増したとする研究もある
  • 夜勤には生活習慣病やがんに罹患するリスクが増大するなどの健康上のリスクがある。体内時計の調整にはかなり時間がかかり、夜勤に体内時計を合わせるには3週間程度を要する。そのため、夜勤は避けるに越したことはないが、どうしても夜勤に従事する場合は、夜勤の真ん中でカフェインを取り、30分程度の仮眠を取ることが望ましい
  • 覚醒直後の認知機能は徹夜明け以上に低下する
  • 20~22時前後は一日で一番「眠くならない」時間帯。この時間に早寝してもすぐに起きてしまう
  • 就寝前1.5~3時間前にお風呂に入るとよく眠れる。一方でいわゆる快眠グッズはほとんどプラシーボ。ただし、睡眠においてプラシーボ効果はとても大きいので、利用できるならそれに越したことはない。運動によって基礎代謝を高めることで快眠効果を得ることもできるが、3~6ヶ月以上かかる。ただし、一旦達成した場合、安定した睡眠が得られるため地道にチャレンジする価値はある
  • 不眠症は実際に睡眠時間が減るというよりも、睡眠時間が減って感じられる現象。そのため、睡眠薬を飲んでも状況が改善しないことがある。しかし、そのメカニズムはいまだ不明である

個人的には、もっと快眠についての知見を得たかったが、この本を読む限り、快眠についてはまだまだわかっていないことが多いようなのが残念だ。

一方で、この本のタイトルにもある「朝型勤務」の問題はセンセーショナルだ。私の所属する会社も昨今「朝型勤務」を奨励しており、一時期私自身試してみた時期もあるのだが、どうにも眠くなってむしろパフォーマンスが落ちたように感じられ止めてしまった。この本で紹介されている「朝型/夜型のアンケート」によれば私は夜型に近い中間型とのことで、やはり向いてなかったのだろう。

このことに限った話ではないけれども、政府や企業に関わらず、制度設計を行う上でしばしば学術的な知見が無視されるのは残念に思う。科学は万能ではないけれども、わかっていることもあるのだから出来る限り有効に使うべきだろう。