年末らしく今年のおすすめの本3選と思ったのだけど、子育てと仕事が忙しくてあんまり読めておらず2冊しか思いつかなかったので3つ目は動画を選んでみた。
その1「遺伝と平等(キャスリン・ペイジ・ハーデン)」
この手の本は大好きで「頭のでき―決めるのは遺伝か、環境か」は愛読書と言ってもよい。とはいえ、さすがに古くなっていることもあって、情報のアップデートも必要だよな、と買ってみたら大当たり。想像を超える素晴らしい本で大変感銘を受けた。
知っている人は知っている話ではあるのだけど、現在の研究では人の知能は平均的にはほとんど遺伝と育った環境で決まってしまう(身体能力に至っては、さらに遺伝の影響が極めて大きい)。もちろん、これは「平均的には」という注釈付きで個々人の能力が必ずしも遺伝や育ちで決まるわけではないのだけど、人生うまく行かない人にとっては「親ガチャ」を恨みたくなるのが人情であろう。
この「遺伝と平等」のすごさは、このような遺伝や育ちによる格差を前提としたうえで、もう一段先の議論を始めるところだ。
かつて目の悪い人は障害者として扱われた。しかし、メガネの発明により健常者と変わらない扱いに変わった。遺伝の影響が現状あるとしても、その影響が無視できる世界を作ることはできないだろうか。
ある遺伝的特徴が優れているとして、しかし、その「優れている」は社会的に決められているだけで、違う社会では必ずしも優れているとはみなされないかもしれない(平安時代においては痩せているよりもふくよかな方が好まれたように)。
個人を構成する様々な特徴が「遺伝と育ち」に大きな影響を受けることは事実だ。しかし、その影響をどうとらえるかは人間や社会の側の問題だと言うこともできる。
絶望の中に一筋の光をともす、とても前向きな議論に思える。
その2「時間は存在しない」
この書籍の内容は必ずしも物理学者のコンセンサスではない(というより確かめるすべはない)のだが、読んだ感想としてはたいへん腑に落ちる内容だった。
著者の主張を端的に書けばこうなる。
「時間というものが物理的に存在するわけではない。(様々な宇宙のうち)我々のいる宇宙がたまたまエントロピーの低い状況から始まったが故に、確定状態と不確定状態を過去/未来として認識しているに過ぎない。過去を記憶しているのは観測され確定しているからで、未来が見えないのは観測されておらず不確定だからだ」
予定説破れたり。自由意思があるかはわからないが、運の要素はありそうだ。安心して選択し運をつかみ取ろう。
その3「光と色彩の科学~光と色を通して観る物性物理学」
色の話からスムーズに量子論に入っていく流れは本当に見事。この動画は高校生のときに見たかったね。
たまに大学とかが公開している講座は見るのだけど「面白い」というレベルにまで至っているものは意外に少ない気がする。