Twitter で話題になっていたが、たしかに非常に面白い。
著者はあのラムズフェルドである。ラムズフェルドと言えば、ブッシュ政権を陰で操ってきたと噂される人物であり、大量破壊兵器があるというデマをでっち上げ、イラク戦争を強引に推し進めた。そういう人物として知られている。
しかし、読んでの印象はまったく違う。なんと理性的で賢く献身的な人物なのだろうか。どの文章も理路整然としており、経験と根拠に根差した説得的な話が並ぶ。
不確実性の中でリーダーはどのように振舞うべきか、マスコミとどのように付き合うべきか、官僚主義とどう戦うのか。実際に長年政権中枢で大統領を支え、その後は企業のCEOとしても活躍した人物の口から語られるのは大変面白くためになる話ばかりだ。
そして、「イラクに大量破壊兵器があった」ことに誤った情報に飛びついてしまったと素直に反省の意を示し、グアンタモナ収容所での事件に対してもひどい行為で早く気付くべきだったと述べている。とうてい陰で操る人物のコメントではない。
喧伝される印象と人物像がここまでかけ離れた人も珍しい。しかし、ひとり似た人物が頭に浮かんだ。銀河英雄伝説のオーベルシュタインである。与えられた問題に対し極めて冷静に考え、そして達成しなければならない決めたら、私情を挟まず断固たる決意でそれを成し遂げる。その結果としてどんな批判をも受け止める。
少なくともアフガニスタン戦争の理由に関しての彼の説明には納得した。911のテロの後、この悲劇は何度も繰り返される可能性があった。テロを食い止めることは非常に難しく、対応方法としては根源であるアルカイダの殲滅しかなかった。
その結果として、多くの無関係なアフガニスタン人が被害を被ったのは事実だろう。しかし、アメリカを守る役割を担ったラムズフェルドにはそれを実行する以外の方法はなかった。
とはいえ、最後まで読んで、(それを目的に読んでいたわけではないけれど)ブッシュ政権がなぜイラク戦争に突入したのかはよくわからないところがある。自伝が別にあるようなのでそちらを読めばわかるのかもしれないが、もしかするとブッシュあるいは現場からの要求に従っただけでラムズフェルド自身は決定をサポートしたにすぎなかったのかもしれない。
本書で披露される様々な知恵はいずれも実際に役立つと思うが、個人的に気に入ったものをメモ代わりにピックアップしてみた。本を買う参考にしてほしい。
- どこで働くかより、誰と働くかが重要である
- リーダーシップや経営管理の秘訣は、適切な人材の登用にある
- 戦略とは大きな目標に向けた活動の基本計画である。小さな目標を定めて優先順位を付けたり、各目標に必要な資源を集めたりするプロセスだとも表現できる。
- 目的地が不明なら、どの道でもたどり着ける(ルイス・キャロル)
- 論理が完璧でも、前提が間違っていれば、結論もまちがった不幸なものになり得る
- (諜報の失敗)原因は、情報不足ではなく情報過多である
- 自分なら絶対にしないことを相手が絶対にしないと絶対に思わないこと
- 第一報はまちがっていることが多い
- (記者から)間違った前提で質問されたら放置しない 適切に言い換えよう
- 正しく報じてもらうために取材は録音する
- 記者相手に「オフレコ」はあり得ない
- 交渉で沈黙が訪れたとき、なにかを言わなければならないと焦らないこと
- 手持ちの軍で戦うしかない。こうだったらいいなと思う軍で戦うことはできない
- まちがっていると納得させるより正しいと納得させる方が簡単
- 指示より問いを記す方が成果があがる
- 「ホワイトハウスの望みだ」と言うな。建物が望みを抱くことはない。
- 資本主義には恩恵が等しく分配されないという短所がある。社会主義には苦難が等しく分配されるという長所がある(ウィンストン・チャーチル)
- 自分で稼いだお金に比べると、他人が稼いだお金は気軽に使いがちだ
- 飛んでくる批判と名声はほぼ比例する