hidekatsu-izuno 日々の記録

プログラミング、経済政策など伊津野英克が興味あることについて適当に語ります(旧サイト:A.R.N [日記])

なぜ労働時間規制は政府が行わければならないか

昨今、ブラック企業問題が新聞を賑わせたこともあって、労働時間の上限規制を強める方向に動いている企業も少なからず出てきているらしい。もちろん、これはいいことなのだけれども、労働時間規制は個々の企業に任せていいかのように思うとしたら考えものだ。

なぜ、労働時間規制を政府が行わければならないか。ひとつには、労働時間というものが競争条件のひとつとなっているからだ。もし、ある善良な企業が労働時間に上限を定めたとしても、悪徳ブラック企業がより多く働かせるならば、結果として悪徳ブラック企業の方が競争上有利になり最終的に生き残る確率が上がるかもしれない。しかし、政府が行うならば、どの企業も一律に規制がかけられるので、個々の企業の有利不利に影響しない。

もうひとつ考えられるのは、労働時間に対する他のサービスの依存関係の問題がある。現在の日本では24時間のサービスが当たり前に提供されているが、労働時間規制が厳しい国ではどの店も早い時間に閉まってしまうそうだ。これはサービスレベルの低下ではあるのだが、逆に言えば早い時間に閉まっても、問題なく生活できるような環境になっているとも言える。

労働時間が長かったり、就業時間帯がまちまちだと、社会もそれに見合ったサービスが提供され、結果として長時間労働や変則的な就業時間が増えてしまう。例えば、正月営業などは、予め営業していないとわかっていれば事前に買いに行くのに、営業することで客足が分散しサービス生産性は下がってしまう。もし、政府が一律、正月営業を禁止してしまえば、利便性もさほど低下させず高いサービス生産性を保つことができる。

一方で、労働時間規制を行えば、日本の生産性を低下させてしまうのではないか、と懸念する人がいる。正直、この懸念には根拠がないのではと考える。

労働時間規制で有名なフランスやオーストラリア、ニュージーランドなどどの国を見ても、ひとりあたりの購買力平価換算GDPは日本と同等かそれ以上にあり、労働時間規制がGDPに強く影響しているようには思えない。

また、今の日本の場合、正規雇用労働者の労働時間がかなり長時間になる一方、非正規雇用の増加が平均としての労働時間を緩和するという状況になっている。労働時間規制は、正規雇用者の労働時間を緩和する一方で非正規雇用者に正規雇用者への道を開くことになる。非正規雇用者は企業にとっては便利な存在でも、職務上スキルの向上に繋がりにくく、社会全体としてみた場合、長期的な生産性を下げると考えられている。安い労働力は消費の低下に繋がり結果的に経済を縮小させてしまう。

それ以前の話として、過労死ラインは月80時間の残業とされており、労働者が亡くなったり、働けない状況になれば、貴重な労働力を毀損し長期の生産性を引き下げることは言うまでもない。今の日本では、裁量労働制の導入や36協定さえ結べば合法的に青天井に近い状態を作ることが可能になっており、事実上、労働時間規制が存在しないという異常な状況にあることはもっと知られてもよいように思われる。

少なくとも日本においては労働時間規制は単に労働環境を改善するだけでなく、雇用問題を改善し、長期的な生産性にも寄与する一挙両得の策だと考えられる。

このたび、悪名高き民主党が「長時間労働規制法案」を出すとの話を聞き、及ばずながら援護射撃をしてみたいと思い書いてみた。日本人の求めるサービスレベルの高さもあり、ヨーロッパ並の労働時間規制は難しいかもしれないが、例えば過労死ラインを上限にする程度の規制ならばさほど大きな混乱もなく導入が可能だろう。労働時間規制が結果的に日本経済の成長に寄与するという理解が得られれば幸いに思う。