hidekatsu-izuno 日々の記録

プログラミング、経済政策など伊津野英克が興味あることについて適当に語ります(旧サイト:A.R.N [日記])

「A Theory of Team Coaching」を読んでみたら

Twitter でリーダブルコードなどの翻訳を行っている角征典さんが「A Theory of Team Coaching」という論文を紹介していたのだが、内容が興味深かったので読んでみた。

この論文自体は既存研究の問題点を指摘し、どうすればコーチングがうまくいくのだろうか、という視点で研究されているため、いろいろ学びの多い内容となっている。

……と思って読み勧めていると、実はこの論文最後にとんでもないオチが書かれている。

One could conclude, therefore, that few scholarly resources should be expended on research on team coaching because it is of so little consequence. Moreover, one could view the reports from the field (cited in the introduction to this paper) that team leaders spend less time on team coaching than on any other category of leader behavior as a sign of team leaders’ wisdom. Rather than spend time on an activity that so rarely makes a difference, leaders might be better advised to focus on aspects of their leadership portfolio for which there is a greater return from effort expended.

DeepL翻訳を使いつつ訳すとこんな感じ

したがって、チームコーチングの研究はあまり重要でないため、学術的な資源を費やすべきではないと結論づけることができます。さらに、チームリーダーがチームコーチングに費やす時間は、リーダーの行動の他のカテゴリーに比べて少ないという現場からの報告(本稿の序文で引用)を、チームリーダーの賢明さの表れと見ることもできます。リーダーは、ほとんど変化をもたらさない活動に時間を費やすよりも、費やした努力からより大きなリターンが得られるリーダーシップポートフォリオの側面に集中することがより良い助言になるかもしれません。

 ようは、コーチングの効果は今の所あんまり重要ではないので、考え方を変えて、効果のあるコーチングの条件を探すことにシフトしようという主張のようだ。

では、その条件とは何か。

  1. 動機、進め方、知識・スキルなど、パフォーマンス発揮のキー項目がタスクや組織の要求によってそれほど制約されていない
  2. チームが活動する組織的背景がチームワークを妨げるのではなくサポートするものであること。
  3. コーチングがメンバーの対人関係ではなくタスクのパフォーマンス向上に焦点が当てられていること。
  4. コーチングがチームが受け入れ体制の整ったタイミングで行われること。努力や動機づけに関する介入は最初に、進め方に関する介入は中間に、知識やスキルに関する介入は最後に行う。

最初のふたつはある意味当たり前なので良いとして、後半のふたつは役に立つ助言かもしれない。

過去の経験を振り返っても、しばしば対人関係がプロジェクトの問題として出てくることがある。この論文に従えば、そういう場合でも対人関係に介入するのではなく、あくまでタスクのボトルネックを解消させるように動いた方がよさそうということのようだ。

また、タイミングについても早期発見と何でも早めに介入すべきと思われがちだが、少なくとも進め方については、プロジェクトの参加者がそのプロジェクトの全体像をきちんと把握した中盤に介入しなければならない、というのはその通りではないかと思える。

チームコーチング自体、効果が薄いようではあるが、特に対人関係に介入しても無駄、というあたりは実際のプロジェクトでも役立てられそうな知見ではなかろうか。