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hidekatsu-izuno 日々の記録

プログラミング、経済政策など伊津野英克が興味あることについて適当に語ります(旧サイト:A.R.N [日記])

プロジェクトマネージャーが本当に気にすべきこと

仕事柄、プロジェクト管理についてはいつも関心を向けているのだけど、私自身があまりプロジェクト全体を管理する立場にないこともあり(基本、アーキなので)、なかなか考えをまとめる機会もなかった。たまたま、本屋でパラパラと PMBOK の本を眺めていて思ったことがあったので、書き留めてみることにする。

PMBOK 自体は辞典的な定義付けという意味では理解できるところは多いのだけど、実践的という観点からするとあまりにも表面的な内容に思えあまり意味があるように思えない。

例えば(といいつつ本題に入るのだけれど)、PMBOK には9つの知識領域というものがあり、これを管理すれば網羅的だよ、という言い方がされる。具体的には次のものが管理対象として挙げられている。

  • スコープ
  • タイム
  • コスト
  • 品質
  • 人的資源
  • コミュニケーション
  • リスク
  • 調達
  • ステークホルダー

たしかに嘘ではない。嘘ではないだが、正直ピンとこない。実際にPMになったとき、これを見ても何をすればいいのかがよくわからないのではないだろうか。

私が思うに、本当の管理対象はこうだ。

  • 顧客
  • 体制
  • タスク
  • 品質

一見して、QCDのCとD、通常最も重視されるコストと納期がないじゃないか、と即座にツッコミが入ると思うのだけれども、外したのには理由がある。

第一に、コストと納期は結果に過ぎない、と考えているからだ。管理してなんとかなものであれば、超優秀なPMを雇えば100円で明日までに100万人月のプロジェクトを成功させることだって可能なはずだが、もちろんそんなことは起きない。

不必要にコストを使っている(プロジェクトの経費で毎日銀座を飲み歩いている、とか)、不必要に期間を費やしている(メンバーが皆、毎日新聞を読みに会社に来ている、とか)というのであれば、管理せざるを得ないとは思うが、そんなことはめったになく、皆最大限に努力しているにも関わらずうまくいかないというのがだいたいのところだろう。

第二に、コストと納期はプロジェクトが始まる前には概ね決着しているということもある。標準工期という概念はあるにしろ、特に業務システムは決算期の切り替え時期やシステム更改の時期があるため、納期は顧客から指定される場合がほとんどとなる。コストについても、近年はコンペや相見積りが必須となる場合が多く、PMがアサインされる頃にはコストの枠は決まってしまっていて変えることは困難だ。

プロジェクトマネージャーの仕事とは、あらかじめ決められたコスト、納期を実現するために別の何かを管理するということなのではないかな、と思うわけだ。

ついでに言えば、リスクも管理対象ではない。というのも、コストも期間も限られている中、起こるかどうかわからないことに対処することは事実上不可能だからだ。リスクに対処するにはそれ相応のお金を積むしかなく、お金を積むのであれば見積り時点で考慮する必要がある。コストが管理対象でないことは前述の通り。

さて、本筋に戻ろう。まず「顧客」である。顧客を管理すると言うと大変失礼な言い方になってしまうが、例えば JUAS のソフトウェアメトリクス調査を見ると、工期遅延理由の半分は要件あるいは開発規模の増大に起因するという結果が出ていたりする。このことを踏まえれば、顧客は発注者であると同時に最大のプロジェクト失敗要因という言い方もできる。もちろん、逆の言い方をすれば、プロジェクトの成功を決めるのも顧客であるとも言えるわけだから、その関係を円滑にすることが重要でないわけがない。

PMBOKで言えば、ステークホルダー、スコープ、コミュニケーションが対応する。

次に「体制」。この体制は、ベンダーサイドの体制を意図している。昔、どこかで「あの男は優秀なPMだと思っていたから、今年の新人を全員投入してプロジェクトを任せたら炎上している」みたいな話を聞いたが、どんなにPMが優秀でも、メンバがまったく使い物にならないのではプロジェクトの成功はおぼつかない。むしろ、PMは並だが、メンバが優秀な人ばかり、という場合のほうがよほど成功しやすいだろう*1

きちんとした体制さえ組めれば、コミニュケーションは自然と改善するものではと個人的には思っている*2PMBOKで言えば、人的資源、コミニュケーション、調達が対応する(人的でない資源の調達は、実際のプロジェクトではそこまでボトルネックになるケースは少ないのではないかと考え一旦無視している)。

「顧客」と「体制」は人的側面の両面であるが、「タスク」と「品質」も構築対象の両面を表している。

「タスク」管理が重要なことはライフハック系の話で必ず言及されることから明らかであるが、プロジェクト管理の側面で言うと期限が重視されすぎなのではと感じる。個人的な経験から言えば、これはまったく間違っている。

タスクとその優先順位が明確になっていれさえすれば、あとは最善の努力でそれをこなすということが重要なのであって、期限自体はある種の目安に過ぎない。困難なタスクはどう期限を切ろうが簡単には終わらないし、そのようなタスクほどあらかじめ作業時間の見込みを立てるのは難しい。そのタスクができるだろうと踏んだ人に任せたら終わるまで待つしかなく、終わる見込みがなければ別の人に頼むしかない。期限は守れたが品質はボロボロというのでは、むしろプロジェクトの失敗に貢献しているとさえ言える。最近、CCPMという制約理論(TOC)に基づく進捗管理手法に言及されることがあるが、この観点からもなかなか良い手法なのではないかと思い始めている。

一方の「品質」は、成功の指標であるQCDのひとつではあるものの、他のふたつが客観的で明白な指標であるのに品質はあまり明確ではなく、見えにくいという点がキモである。コストと期間が制約されている状況下では、その結果が品質の低下として現れるのは必然ではある。とはいえ、多少の品質劣化であれば、必ずしも大きな問題とはなるわけではない。業務的にカバーできる内容であれば、リリース後に修正してもよいわけだし、めったに使わない機能に存在する不具合の場合、誰も気付かないことだってありうる。また、システム開発の裁判においても、納品後も不具合が残ることは一般的であり、それ自体はプロジェクト中断の理由とはならないとされている。

問題はユーザの利用を妨げるほど著しく品質が悪い場合だ。開発がわからないプロジェクトマネージャーのつまづきポイントがここにある。タスクとスケジュールだけを管理し、品質をまったく見ずに進めた結果、完成したと思われていたはずのものが実は完成していないというオチがおとずれる。どんなボタンを押しても例外が発生するという明らかな不具合から、すべての金額計算が浮動小数点型で行われているといった細かい問題もある。魂は細部に宿るではないけれど、ミクロだが致命的な問題は見えづらいがゆえに、納期直前に発覚する事が多く致命傷になることもある。途中でソースコードレビューを行ったからといって、すべての不具合が検出できるわけではもちろんないが、成果物の品質水準や開発者のレベルはある程度わかる*3

まぁ、私自身はプロジェクト管理の経験が豊富とは言えないので、今まで傍から見てきた感想と思っていただきたい。

TOC/CCPM標準ハンドブック クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント入門

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*1:前述のJUASの調査によれば、ベンダー側PMの能力はソフトウェアの品質に大きく影響するという結果が出ているので、PMが重要でないと言いたいわけではもちろんない

*2:宮﨑駿は、人間関係もふまえアニメーターの座席を自ら決めるそうだが、それはやりすぎな気がするし万人におすすめするような手法とも思えない。

*3:よく品質は自動チェックツールで判断すればよいのでは、という話が出るのだが、自動チェックツールはコンピュータでしか気付けないような不具合の発見に得意な反面、さきほどの浮動小数点型の利用といった業務的な観点での不具合は見つけてくれないため、実際のところ品質の判定には使えない気がする。むしろコーディング規約の違反に開発者のスキルレベルが現れやすい感がある。