hidekatsu-izuno 日々の記録

プログラミング、経済政策など伊津野英克が興味あることについて適当に語ります(旧サイト:A.R.N [日記])

アニメ「未来日記」が面白かった話

若い頃は、と書くと年寄りじみてしまうけど、もうすぐ初老だ。悲しいかな、人間特に何もしていないのに歳だけはとっていく。押井守は「若さに価値などない」という。今に至り、それは概ね真理だとは思うけれど、そうとも言い切れない部分もある。ひとつは(本当にはないのかもしれない)可能性を夢見る能力、もうひとつは残り時間が長い分長期投資ができることだ。

歳をとったからこそわかることというのは多い。若い頃は、自分の面白いと思うものは誰もが面白いと思うものだと思っていた。大学くらいでその違いに気づき始めるが、その違いは話せば埋めることができるものだと思い込んでいた。そしてそのうち、世の中には想像を遥かに超えるいろんな考えの人がいることに気付いていく。

同じ職場にいて、同じように仕事をしていても、それぞれの生まれや性格、人生や立場があり、価値観は意外なほど異なっている。話せばわかりあえる、などというのはたまたま議論の参加者に共通点があったからかもしれないし、実際には噛み合っているようにみえただけで、各人の脳内に浮かぶものはまったく別なのかもしれない。

閑話休題Netflix でアニメ「未来日記」を見たところ、大変おもしろかった。以前からところどころで言及されるので気にはなっていた。

少し前の作品だからか、あまり言及を見ないけれど「未来日記」はいろいろと新しいアイデアが詰まっている。「未来日記」というガジェット自体、よくある特殊能力系のひとつとも言えるが、その能力の理由付けに合理性があり、携帯だけでなくボイスレコーダーや絵日記、巻物といったメディアの多様性もある。すごく良く出来たアイデアだ。

一番の発明は、「気の狂った殺人鬼かつストーカーだが、一途に愛してくれる」という異常なヒロイン像だ。好きが転じて殺人、というパターンはあったが、こんなキャラクターが成立するとは。

面白いと思うところは人それぞれだろうけど、見ていると自分が「新しい発想が好き」であることに気付かされた。具体的に書くとネタバレになるものが多いから書かないけれど、SFっぽいファンタジーが好きなのもそれに起因している気がする。

後半に行くに連れて斬新さは減ってくるけれども、最初から全力で話が展開していくので、まったく飽きることなく最終話までいっきに見てしまった。

良い悪いということではないけれど、普通の作品だったら、第一話はもっと日常風景を描写したり、主人公が妄想に浸る様子を見せて、その後の展開で驚かせるものだと思う。しかし、そういうまどろっこしい演出は一切ない。そういえば、作中では連続殺人、学校爆破でクラスメート殺戮、タワー破壊と、そうとう陰惨な出来事が起こっているにも関わらず、押しなべてあっさりした演出となっている。悲劇に躊躇も感情もない。

総じて、この作者の考えが私の思考の延長線上にまったくない。

どのキャラクターも狂人の類でまったく感情移入できないし、こんな陰惨な事件をサスペンス・アクションとして書くなどということはできそうもない。私にはストーリーテラーとしての才能はないが、もし書けたとしても常識の範囲内の人間像で造形し、陰惨な事件は陰惨な演出にしてしまうだろう。

「お前は俺か」と思うような作品も楽しいけれど、こういう自分の中にはまったくない思考を垣間見れる作品は本当に貴重に思える。

「話せばわかる」と言って殺された犬養毅の没年は 76 歳だそうだ。歳をとったからと言って必ず気付くものでもないらしい。たしかに気付かない方が人生は幸せそうではあるが。