hidekatsu-izuno 日々の記録

プログラミング、経済政策など伊津野英克が興味あることについて適当に語ります(旧サイト:A.R.N [日記])

最近の経済について思うこと

経済について書くのが最近気恥ずかしくなってきたのでできるだけ書かないようにしているのだけれど、たまにはということで書いてみることにする。

最近の経済状況は、正直なところよくわからない。いや、元々専門家ではないのだからわからないのも当然ではあるのだが、多少はわかっているつもりではあった。より正直に告白すれば、今にして思えば結局、誰もわかっていなかったのだから、そんなもんだと思う方がよいのかもしれない。ともあれ、このエントリの内容は、ただ思っていることを書いているだけで、根拠のかけらもないと、先に予防線をはっておくことにする。

安倍政権になって以降、リフレ政策と消費税増税というふたつの大きな経済実験が行われた。本来であれば、もう十分に時間が経っているわけだから、その成否くらいはわかるのではないかと思うのだが、専門家である経済学者から納得のいく説明はなされていないように思う。それどころか、賛成派、反対派共に従前の主張を繰り返しているにすぎないようにすら見える。中には結果から見ても首を傾げるような主張を繰り返す人すらいる。

私自身、いまだにリフレ派であるから、基本的にはリフレ政策は(大とは言わない)成功であったし、消費税増税は(予想外に)失敗であったと思っている。が、残念ながら、その根拠は確かなものとは言いがたい。そうであろうと信じる、という表現がせいぜいである。

まず、リフレ政策だが、労働に関する部分、すなわち、フィリップス曲線で説明されるインフレ率の上昇が失業率を下げ、労働市場を逼迫させるという部分については想定通りのことが起こってるように見える。中高年の失業率も大幅に改善しているだけでなく、ブラック企業問題の勃発や社会的な労働時間削減の動きも強まっており、ここまで変わるものか、と驚くほどだ。それ以外にも、金利低下、円安、債権から株式などリスク資産への転換も予想された結果ではある。

一方で、大きく予想が外れたのが最大の争点となってきたインフレ率だ。インフレ率が多少は上がっていることは否定しようがない。とはいえ、インフレ目標を設定しあれほど大規模に金融緩和を行ったのだから、簡単にインフレになるだろうと思っていた。ある意味、クルーグマンの It's baaaack の通りデフレ期待は根強かったという言い方もできる。そうは言っても、昔からあったインフレ目標でハイパーインフレ、あるいは国債暴落などという意味不明な批判については、論外であることが改めて確認されたということくらいは言えるかもしれない。

なお、インフレ率の上昇がトレンドと区別がつかないという主張もあり、上記のように金融緩和は効果があったという考えには贔屓目があることは否定できない。それでも、良さそうなことは起こっている一方、悪そうなことは起こっていないことを考えれば、金融緩和を縮小するべき必然性はまるで思いつかない。手段の面でも、名目成長率ターゲットや地方債の購入など緩和拡大策はまだまだ残されている。

ただ、日本の低成長率の原因がデフレにあるかは今では疑問に思っている。生産年齢人口で見れば、日本の成長率は他の先進国とほとんど変わらない、という事実を考えると、低成長率の原因はバブル崩壊対応の失敗と少子高齢化の影響の方を主因とする方がしっくりと来る。

消費税に関しては、実は実施前には個人的にはさほど問題だとは思っていなかった。諸外国での実績を見ても、消費税増税それ自体が持続的に悪影響を与えることは考えにくく、「こんな経済が悪い時にあえてリスクを取る必要はない」という意味で反対ではあったもののそれ以上の考えはなかった。

しかし現実は散々たる結果だった。中にはいまだに消費税の悪影響は一時的であったと主張する人もいるにはいるが、おおむね、悪影響は前提とした上で、なぜこんなに悪影響を持ってしまったのか、という点に焦点が移っているように思える。

感覚的には、消費税そのものが問題だったというよりも、控除の廃止など純粋に増税されたこと、そしてその使い道が不適切だったのではないかと思っている。増税を行っても、税金は(公共事業や年金など)何らかの形で国民に還元されるものであるから、適切に使われるのであればその悪影響は最低限に抑えられると考える方が妥当だろう。

アベノミクス前にはまったく予想していなかったことではあるが、バーナンキ背理法で主張された、望ましくない副作用であるはずの「いつかはインフレになる」が否定され、起こるはずのない「無税国家の誕生」というマネタイズ政策が実際に機能する状況が発生してしまっている。経済学者の中には、景気が回復すれば国債は売らねばならず、貨幣発行益は消えると主張していた人もいると記憶しているが、実際に起こりそうなことは、好景気がいつまで経っても起きず、金融緩和策は止めるきっかけを失い、結果的に財政問題が解決してしまう未来である。

この状況は偶然起こってしまったかもしれないが、少子高齢化で国全体の成長率が抑えこまれている日本においては、唯一の正解なのかもしれない。25~60%の消費税率を甘受するよりはよほど現実的なように思える。