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hidekatsu-izuno 日々の記録

プログラミング、経済政策など伊津野英克が興味あることについて適当に語ります(旧サイト:A.R.N [日記])

IT技術者は仕事への満足度が低い、というお話

最近、スラドにて以下のような記事が掲載された。

この記事で興味深いのは、ブラックな労働環境で有名な日本のIT産業ではなく、比較的年収も高く、世界最先端の環境にあるアメリカのIT産業であることだ。

以前、「「業務系SEの末路的なお話でして」と一人当たりGDP - A.R.N [日記]」でも書いたようように賃金格差の大部分は一人あたりGDPで説明できるとはいえ、コメントにもあるようにアメリカについてはそれを考慮しても高い水準にあるのも事実である(ただし、アメリカにおけるIT企業は国際的な大企業が賃金水準を引き上げているだけで、日本の技術者がアメリカ企業に転職しただけでその賃金水準が得られるとは思わない方がよいかもしれない。米マイクロソフトに就職することは日本であればトヨタに就職することを意味しているのかもしれない)。

そのような高い給与水準、Googleに代表されるすばらしい福利厚生を与えられている人々ですら職や業務内容に満足していないという事実は、大変興味深い。インターネットの世界においては、いまだ技術者の発言力は大きく、しばしばその不満が書き込まれるが、その原因は必ずしも日本の労働環境によるものではないかもしれないのだ。

元となった内容は、TINYpulseという労働系の分析機関が発表した「テクノロジー産業の従業員エンゲージメントの状態」という調査のようだ。

「従業員エンゲージメント」という言葉は始めて聞いたのだが、「従業員それぞれが、会社が実現しようとしている戦略や目標を理解し、腹落ちして、そこに向かって、自らの力を発揮しようとする自発的な貢献意欲」ようなことを意味しているようだ(エンゲージメントには婚約や契約のような意味もあるので、最初、雇用契約のことを言っているのかと思ったが、それだと辻褄があわない)。

この調査は、TINYpulseと契約している500の企業の5,000人の労働者を対象に調査されたもので、IT産業だけを対象としたものではなく、結果としてIT産業は他産業に比べ満足度が低かったことがわかったようだ。

ここで挙げられている主要な事実には次のようなものがある。

  • 仕事について幸せか尋ねたところ、IT系労働者の19%のみがとても幸せであると答えた。
  • 他の産業では50%以上の人が昇進やキャリアパスが明確であると答えたのに対し、IT系労働者でそう答えた人は36%に過ぎなかった。
  • IT系労働者の17%だけが自分の仕事に価値があると答えた。仕事に価値を感じるか否かは、同じ仕事を続けるか否かに強く相関があることが知られている。
  • IT系技術者の28%だけが会社のビジョン、ミッション、価値観を知っていると答えた。これは他の業種の従業員より15%低い水準で、さらに悪い事にその中には会社の価値観や実践方法を知っているが同意しないものもいる。
  • IT系技術者の47%が同僚との良好な関係を持っていると応えているものの、他産業ではこの数字が56%に跳ね上がる。

残念ながら、その理由に関する考察はあまり述べられてはいないのでここからは私見になるが、以下のようなことは挙げられるのではなかろうか。

  • 上流、下流を問わずIT系技術者は長時間労働になりやすく、運動不足にもなりがち(運動不足はしばしば肉体的にも精神的にも問題の原因となる)
  • 技術の移り変わりが激しすぎ、学ばないと置いて行かれるし、学んでも活かす機会はなかなか訪れない。
  • 技術者としてのスキルアップキャリアパスと一致しない。特に日本のシステム開発企業においては、上位の役職になるにつれ営業職として側面が強くなる。
  • IT系では成功すると世界的な経営者で大金持ちとなるケースも多く、幸福の基準となる参照点が上がり過ぎてしまう。

私自身もプログラマ定年説でよく出てくる35歳を超え、40代目前になってしまった。会社の仕組みを理解するにつれ、単に技術に詳しい、良いプログラムをかけるというだけでは利益への貢献は限られることもわかっている(だからと言って技術を軽視すると大失敗して会社に大きな損失を与えてしまうのもまた事実ではあるのだが)。

ITという業種にいながら、どうやったら幸福を手に入れられるのか、我が身を振り返りながら考えていかねばならない。